少しだけ赤いりんごのお話し
イントロ
大人には見えないお花畑のお話しを少しだけ。
おじいさんとお花畑とりんご
子どもの頃、どうやってここに辿り着いたのか、どうして今ここにいるのか思い当たらない、そんな不思議な経験をしたことがある。
わたしは幼い頃、妄想癖があって、よく父親に作り話をして聞かせた。
この頃の月齢であれば、妄想癖なんて発達上全く問題はないから、おかしな子だと言う大人はいなかった。
「あっちの山を越えるとお花畑があるの。すごく広いんだ。ムー(当時飼っていた雑種犬)を追いかけてたら見つけたの。
あとね、井戸があったの。のぞいてみたら真っ暗だった。なにかが見えそうだったからじっと見ていたの。
そしたらね。近くのおじいさんが来てあぶないよって言うんだ。帰り道は手をつないでくれたよ。」
ほんとうの話し
「道の途中の小屋で休もうって言われたから、中に入って座ってたの。おじいさんはガチャって大きい鍵をかけてたよ。
そしてリンゴをくれたんだ。リンゴを眺めていたら、おじいさんが耳を噛んできたの。痛かった。」
こんな調子で話しをした。父親はそうかそうかと疑うような素振りは全く見せず、話しを聞いてくれた。
「ほんとだよ。怖かったんだ。」
これは声にならなかった。わたしの話しはウソとホントが混じり合っててわかりにくい。ホントのことを話しても信じてもらえないだろうとも思っていた。
あの日たどり着いたお花畑を、大人になってから本当にあるのかどうか父親に確認したことがある。そんなところは無いと話された。すなわち井戸も小屋もリンゴも無いはずのものだった。
おじいさんの記憶
ただ、近所のおじいさんは生きていた。わたしが大人になったころには亡くなってはいたが、お花畑にたどり着いたあの頃、門構えがしっかりした、やけに広く大きな家で一人暮らしをしていた。
おじいさんは、幼いわたしを小屋に閉じこめて南京錠をかけた。少し赤いリンゴをくれた。動けないように抱えて、わたしの耳を噛んだ。
幼な過ぎて何をされているのかわからなかったけれど、「痛い。」という感覚だけははっきり覚えている。
南京錠が外されるのをじっと待って家に帰った。
アウトロ
少しだけ赤いりんごを母に渡すと『良かったね。』と喜んでいて、わたしは、いつもどおり姉とままごと遊びを始めた。
今日は、ウソとホントがごちゃまぜになった話し。
大人に伝えてもしょうがない話し。
fin
*すべてフィクションです。
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